―映画からハリウッド・ホモ・ネットワークを検証する―
Text by 田村信


 以前、カール・ルイスがいきなりカミングアウトして、スポーツ界をびっくりさせたが、ハリウッドでも、「私はホモだ。何が悪い」と男好きを堂々と喧伝する猛者も増えてきた。
 確かにちっとも悪くないが、別に威張ることでもない。スターの性癖をとやかくいうのは、ハリウッドでは日常茶飯事で、やれロブ・ロウはセックス中毒だの、マイケル・ダグラスは女依存症だの(同じ意味だが)、昔からまことにかまびすしい。これらと同じトーンで、ホモも当然話題になるが、これらの口撃は“有名税”というひと言であっさり正当性を持つことになる(ホンマかいな)。
 最近では、キアヌ・リーブスがじじいのプロデューサーと「結婚」したとかしないとか雑誌で騒がれているが、キアヌ・リーブスが真性ホモかどうかはともかく、これはいかにもホモだな、と察しがつく人物は映画を観ていれば何人も浮かび上がる。
 さらに、それらは確実にリンクしあい、見事なハリウッド・ホモ・ネットワークを形成しているのだ。ああ、おそろしい。いや、別におそろしくはないが、調べれば調べるほど、そのループの粘着性に愕然とするのだ。
 というわけで、ここに映画からハリウッド・ホモ・ネットワークを、まことに独創的に検証する!!
 ホモ疑惑というより確証を、日本の写真雑誌で、つい最近、伝えられたのが、本年度アカデミー主演男優賞を獲得したケビン・スペイシー。あの『セブン』('95)で、サイコな犯人を演じ一気にブレイク、その後『評決のとき』('96)、『LAコンフィデンシャル』('99)、『交渉人』('99)と、大作が相次ぎ、トップクラスまで駆け登ったいま、ハリウッドで最も注目されるホモ俳優だ。以前から噂はあったが、今回の報道もアカデミー賞受賞に時期を合わせたもので、ここでも“有名税”の原理が幅を利かせる。
 このケビン・スペイシーを強烈に世に知らしめたのが、『セブン』ともう1本、同じ95年に制作された『ユージュアルサスペクツ』。この映画も評価は高く、犯人探しの大逆転を盛り込んだ脚本は、その年のアカデミー脚本賞に輝いた。この2本のヒットで、個性派ホモ俳優はハリウッドで引っ張りダコとなるのだが、この『ユージュアルサスペクツ』の監督がブライアン・シンガー。ケビンのホモ報道がなされるだいぶ前に、こちらは堂々とカミングアウト。
「おれはホモだ。何が悪い」
 と、誰も責めちゃいないのに、勝手に吠えまくったのは、この生粋ホモのおっさんだ。確かに『ユージュアルサスペクツ』のキャスティングを色メガネで見てみると、ボールドウィン兄弟の三男、テレビ上がりの色白スティーブン・ボールドウィン。気色の悪い色男ガブリエル・バーン。ブルドッグ顔がセクシーなチャズ・パルミンテリ。細い目がチャーミングなベニシオ・デルターロと、なにやら妙にブルーっぽい。ピート・ポスルスウエストは、顔がいかつすぎる。
 この作品で注目される以前に、ブライアン・シンガーは、脚本クリストファー・マクアリー、音楽ジョン・オットーマンという同じスタッフで、『パブリックアクセス』('93)を撮っているが、これの主役ロン・マグエッティもやっぱりブルーっぽくてセクシー。ホモが徒党を組んで芸術にいそしめば面白い映画ができあがるのだ。
 この大義名分が、ジワジワとホモネットワークの触手をのばす。カミングアウトして、恐いものなしとなったブライアン・シンガーは、次の作品『ゴールデンボーイ』('98)で、前2作では描けなかった同性愛の条理をスティーブン・キングの原作にうまく融合させる。
 まず、ハリウッドでは有名なホモのじいさん俳優イアン・マッケランを主役に据え、このじいさんと奇妙な友情を交わす少年役に、『スリーパーズ』('96)のブラッド・レンフロをキャスティングした。ブラッド・レンフロは『スリーパーズ』のなかで少年院で看守(ケビン・ベーコン)にオカマを掘られる衝撃的な役を演じた美少年で、この映画を観た生粋ホモのブライアンが心を震わしたことは想像にかたくない。
 監督が監督だけに、少年とじいさんのタイトロープのような友情は原作にはない違った意味での怪しさをかもし出すが、ホモ監督の本領が発揮されるのは浮浪者役のエリエス・コーターズが登場してからだ。このハゲの本格ホモ、エリエス・コーターズは『サイボーグ2』('93)で主演も務めた個性派で、『シンデッドライン』('98)などの大作にもごくまともな役で登場するが、このハゲホモがあとでハリウッド・ホモ・ネットワークの重要な部分に登場するので覚えておいてもらいたい。
 エリエス・コーターズ扮する浮浪者は一夜の宿と酒との引き替えに、じいさんに身体を許そうとするのだが、どちらともなくそういう雰囲気になる画面が恐い。イスに座った浮浪者の後ろに回り、はげ上がった頭をなで回すホモのじいさん。ああ、おぞましい。さすがに恐いものなしのブライアン・シンガー。今後も期待大。
 そしてホモのじいさん俳優イアン・マッケランが『ゴールデンボーイ』と同じ年に主演したのが『ゴッドandモンスター』('98)。もちろん、ホモの役だ。この役は、イアン・マッケラン以外にない。一線を退いたホモの映画監督の役を嬉々として演じている。
 クリストファー・ブラムの原作をビル・コンドンが脚本・監督に当たったが、なんとこの脚本がこの年のアカデミー脚色賞を受賞した。ビル・コンドンはイギリスのスティーブン・キングと呼ばれ、怪奇幻想作家からハリウッドに進出した、これまたホモのクライブ・バーガーの秘蔵っ子で、95年に『キャンディマン2』を撮っているが、これはランド・ラビッチ、マーク・クルーガーの脚本のまずさもあり、みるも無残な超駄作であった。
『キャンディマン2』『ゴッドandモンスター』共にプロデューサーはホモ師匠クライブ・バーガー。ホモ色のみえない『キャンディマン2』の失敗で開き直ったホモ師弟は、ホモの原作をホモがプロデュースし、ホモが脚本・監督を務め、ホモの俳優を使って、ホモの映画『ゴッドandモンスター』をつくり、見事にアカデミー賞をかっさらったのだ。見事なりホモ。徒党を組めば強いのだ。
 SM志向の強いホモ師匠クライブ・バーガーには、原作から脚本・監督も全部自分でやった『ヘルレイザー』('87)、『ロードオブイリュージョン』('95)などの怪作があるが、類はホモを呼び、『ミディアン』('90)であの変態ホモ、デビッド・クローネンバーグと結託するのだ。
 気色悪さを“売り”としてカナダ映画界からハリウッドに進出したカルト人気の高いクローネンバーグは、88年にカナダに里帰りして撮った『戦慄の絆』あたりから、それまでは不気味さ、気色悪さのかげに隠れてあまり表に出なかったホモが徐々に姿を表す。後天的なホモはいないというのは常識で、もとよりホモだったクローネンバーグがハリウッド進出第1作、原作スティーブン・キングの『デッドゾーン』('83)の主役に起用したのは筋金入りのホモキング、クリストファー・ウォーケン!
 このウォーケンこそ、ただ者ではないのだ!
『ディアハンター』('78)で、アカデミー助演男優賞を獲得し、一気にスターダムにのし上がったウォーケンを81年にとんでもない事件が襲う。あの『ウエストサイド物語』の歌姫ナタリー・ウッドが新作のロケの合間にヨットから海に落ちて急死。ヨット上にいたのは、ダンナのロバート・ワグナーとウォーケン。何と地元警察はこの2人をナタリー殺人事件の重要参考人として検挙してしまうのだ。
 50〜60年代のハリウッドを代表する女優の変死と往年の二枚目スター、さらに売り出し中の若手スターの検挙に、アメリカ中が大騒ぎになった。日本でも連日大々的に事の成り行きを夕刊紙が追った。
 ハリウッドの見解としては、ワグナーとウォーケンがデキてしまって、ナタリーが邪魔になって殺してしまったというまさに映画を地でいくようなストーリーであったが、結局は、証拠不十分で不起訴。外国での事件で、しかもスターのスキャンダルということで、日本の記事にも多少の間違いや誇張はあろうが、ナタリー・ウッドが変死し、ロバート・ワグナーとクリストファー・ウォーケンが少なくとも地元警察に事情聴取を受けたことだけは事実である。ここにも、“有名税”が介在し、事はいくらでも膨張し得る。
 問題は、すぐにロバート・ワグナーとの仲を疑われ、それがあながち間違いではないと納得せしめるクリストファー・ウォーケンの所為である。
「さすがに殺人まではやらないだろうが、ホモに関しては昔から間違いない」
 というのがハリウッドの見方だ。確かにTV『刑事コジャック』にゲスト出演した無名時代のウォーケンをみても(この時代は名前が違う)、ホモ俳優独特の怪しいオーラがすでに出ている。どんなオーラじゃ。
 とにかく、この事件以来、ウォーケンはハリウッドホモの王道をいくわけだが、こんなウォーケンをデビッド・クローネンバーグは『デッドゾーン』の主役に熱望したのだ。そしてそのクローネンバーグをホモ師匠クライブ・バーガーは自分が監督した『ミディアン』のなかで俳優として起用するのだ!磁石が引き合うように、次々と結合するホモネットワークの輪!
 SMホモ師匠と変態ホモの融合は、作品にものすごい気色悪さをもたらし、ぶきみさ倍増、恐さ100倍、でも面白さ激減。なんじゃそりゃ。特筆すべきは、初めてスクリーンにその姿を現した変態ホモ、クローネンバーグ。このとき47歳。頭がでかく、長髪、身体は小さめでやや華奢だが、鼻筋ビシーっと通り、何とも知的でハンサム。ダスティン・ホフマンがきゅーっと酢を飲んだような表情がセクシー。出ている! ホモ特有の怪しいオーラが出ている!
 このホモ師匠との融合以来、クローネンバーグの映画世界も恐いものなしになる。カミングアウトしたとたんベースに“ホモ”を位置づけはじめたブライアン・シンガーのように、本能で勝負し、アカデミー賞をさらったクライブ・バーガー、ビル・コンドンのホモ師弟のように、クローネンバーグもまた“ホモ”を前面に押し出しはじめたのだ。おざなりの虚飾世界では満足できない芸術家の性だ。いかにおさえようが、とどめようが、作品には作家の本質が必ずどこかに現れる。
 ならばその本質をすくい上げ、咀嚼(そしゃく)し、自分が最も得意とする部分、最も撮りたい素材で勝負しようと決心がついたときに、芸術家は恐いものなしになるのだ。これはもうとめられない。
『ミディアン』の怪演のあと、監督に戻ったクローネンバーグ次の作品は、『エムバタフライ』('93)。ついにきたかの背筋も凍るこの作品は、主演にジェレミー・アイアンズ、ジョン・ローンといういかにもの2人をそろえ、なんとジョン・ローンはきれいにきれいに化粧をほどこした“女優”になっている。そしてこの2人が愛し合う。なんじゃい、これは。上半身裸のジョン・ローンが後ろ向きでベッドの中央に座り、なまめかしく首だけ横に向け、髪をかき上げる。なんなんじゃ、これは。
 原作のデビッド・ヘンリー・ファングが素人みたいな脚本を書いて、まったくターキーなエクスプロイテーション映画となってしまったが、クローネンバーグは満足したのであろう。
 ただジョン・ローンはホモではない。いかにもの感じがするし、噂もあるが、これはキアヌ・リーブスにもいえることだが、ホモの監督にいかに好かれようが、ホモのプロデューサーにいかに請われようが、これだけではホモではない。心底、男が好きなのがホモだ。
 映画を通じスクリーンを媒体としてカミングアウトしたクローネンバーグは、なおも走る。『エムバタフライ』の次の作品は、ついに出たぞ『クラッシュ』('96・カナダ)。これはJ・C・バラードの原作をクローネンバーグ自身が脚色し、好きなように、思いのたけをぶつけて撮りきったアンモラルなトリップ映画だ。男と女にホモと女とレズが強度の粘着性を持ってからむ。
 かねてより、クローネンバーグのグチャグチャビチャビチャ具合は、人間の内臓だけにとどまらず、脳に、さらには神経・思考にまえおよぶ気色悪さを持っており、恐いものなしとなったここでは、その変態ホモの本能がむくむくと隆起し、爆発する。
 女優陣にホリー・ハンター、デボラ・カーラ・アンガー、ロザンナ・アークエット、女とホモのあいだで揺れる青年にジェームズ・スペイダー。そしてホモ役に、出たぞあの本格ハゲホモ、エリエス・コーターズ!変態ホモ、クローネンバーグと大きな仕事を終えた本格ハゲホモ、コーターズはこの作品の2年後、生粋ホモ、ブライアン・シンガーに請われ、ホモ映画『ゴールデンボーイ』のなかでホモの浮浪者役を演じ、ホモのじいさんイアン・マッケランとホモホモ合戦をするのだ!
 おお、何と見事なハリウッド・ホモ・ネットワークの輪! ああ、何と恐ろしいハリウッド・ホモ・ネットワークの輪! 別に、恐ろしくないっちゅーに。▼

*デビッド・クローネンバーグは、このあと「レザレクション」(99)にも俳優出演。ちょこっとしか出ないが神父の役でっせ。そして監督としての新作が9.20にレンタル開始される「イグジステンズ」。なにやら脳で「イク」変なゲームのお話らしい。
予告編の惹句が「それでは皆さん中枢神経で会いましょう」だと。うう楽しみじゃ。

登場ホモ  
生粋ホモ   ブライアン・シンガー
売れっ子ホモ   ケビン・スペイシー
変態ホモ   デビッド・クローネンバーグ
本格ホモ   エリエス・コーターズ
ホモ師匠   クライブ・バーガー
弟子ホモ   ビル・コンドン
じいさんホモ   イアン・マッケラン
ホモキング   クリストファー・ウォーケン
たぶんホモ   ロン・マグエッティ
ホモ犠牲   ブラッド・レンフロ
両刀使い   ロバート・ワグナー
ホモが好む作家 スティーブン・キング
ホモでなくもない キアヌ・リーブス
どうみてもホモ   ジェレミー・アイアンズ
ニセホモ     ケビン・ベーコン
ホモ喰い     ジョン・ローン
おそらくホモ     スティーブン・ボールドウィン
みかけはホモ     ガブリエル・バーン
ホモもいけまっせ    チヤズ・パルミンテリ
わしもいけまっせ    ベニシオ・デルターロ
生粋ホモの友人    クリストファー・マクアリー、ジョン・オットーマン
いかついホモ     ピート・ポスルスウエスト
ホモたらし   ジェームズ・スペイダー